器でお酒はもっと楽しめる 長野県の酒器

器でお酒はもっと楽しめる 長野県の酒器
材質、形、大きさ、雰囲気…。どんな酒器でいただくかで、お酒のある時間はがらっと変わるものです。長野県には器をつくる作家が多くアトリエを構えます。長野県の日本酒を長野県のつくり手による器で召し上がるのも粋な楽しみです。

角居 康宏|錫

左はオーダーメイドのちろり。1面あたり2種、合計8種の模様が打ち込まれています

お酒飲みが一度は憧れるのが〝錫〟ではないでしょうか。洗練されたその姿はもちろんのこと、錫の器に入れた水は悪くなることがなく、切り花を入れれば長持ちするといわれているように錫は高い浄化作用で知られ、日本酒がまろやかになるとも言われています。錆びることがないので、食器としても古くから愛されてきました。熱伝導率が高いことも錫の特徴です。冷えた日本酒はよく冷えたまま、お燗にすればすぐに温まるという利点もあります。

長野県で錫をはじめとした金属の工芸品や芸術作品をつくるのが、自身も日本酒をこよなく愛する角居康宏さん。片口やちろり、ぐい呑みなど、さまざまな錫の酒器を制作します。ちろりの持ち手には熱伝導率の低い真鍮などを用いています。動きのある遊び心にあふれた形も角居さんならでは。錫は柔らかな素材なので、表面に模様をつけることも可能。サンプルから模様を選ぶと、角居さんが手作りした金槌で模様を打ち込んでくれて、自分だけのオリジナルの酒器が出来あがります。

角居さんのおすすめ

特別純米 北光正宗(角口酒造店|飯山市)

長野県のお酒はおいしいのが多くて迷うけれど、とくに好きなのはこちら。でも宮坂醸造も、大信州酒造も、佐久の花酒造も、黒澤酒造も好きです。水尾は水害に遭われたときにボランティアにも行ったくらい好き。どの酒蔵でも吟醸よりも特純が好きです。2021年の秋には酒燗器も販売する予定です。蝋燭の火でちろちろと…たまりませんね。

阿部春弥|磁器

面取りの片口と銀彩を施した猪口。右奥の器2種も阿部さんの作品

毎日使いたい、食卓になじみ、何を盛っても様になる万能といって過言でない磁器をつくるのは、上田市生まれの阿部春弥さん。型に押し付けて成形したり模様を浮き立たせたり、あるいはかんなで削るしのぎや面取りなど、手間のかかる、そして洗練された作品をつくります。その手間ひまや手技の繊細さがにじみ出る一方で、毎日しっかりと使いたい、おおらかな雰囲気をまとうのは、阿部さんの人柄そのものが写し込まれているようです。

写真にある面取りの片口と猪口は重ねることもできるタイプ。食器棚でかさばることなく、セットで収めることができて便利です。白、ルリ、黄磁を中心に制作してきましたが、近年では、もえぎのほかになんとピンクもラインアップに加わりました。銀彩や金彩を施したものなどもあり、こちらは食卓をぐっと引き締めます。磁器というとそのたたたずまいから敷居が高いイメージもありますが吸水性が低く、かつ硬くて扱いやすいのでぜひひとつ、晩酌に揃えてほしい器です。

阿部さんおすすめ

水尾 金紋錦使用のもの(田中屋酒造店|飯山市)

誕生日やバレンタインなど特別な日に妻が買ってくれることが多いお酒で、ご褒美的な日本酒です。

金宝芙蓉 純米吟醸Tsukuyomi(芙蓉酒造|佐久市)

封を開けたときの広がる香りがとっても豊かで、印象に残っています。フルーティな味わいも飲みやすくおいしいです。

どぶろく 十二六(武重本家酒造|佐久市)商品

当主の武重さんに、ビールや赤ワインで割って飲むことを教えてもらってハマりました。1本で色々楽しめるのは新鮮。期間限定の発売です。

角 りわ子|陶器

水上勉氏が勘六山房として居とアトリエを構えた勘六山に、氏のアシスタントとしてやってきた陶芸家の角りわ子さん。暮らす土地の土で器づくりがしたいと考えていた角さん、水上氏のすすめもあって勘六山の土を掘ったところ良い土だったそうで作陶に用いるようになりました。「水上先生が、〝この土でつくった野菜を、この地でつくった器で食べることほどぜいたくなことはない〟っておっしゃってね」と、懐かしそうに角さんは振り返ります。

水上氏が逝去したのちも、角さんは勘六山のアトリエ兼住居のかたわらで野菜を育て、作品をつくり続けています。さまざまなシリーズがありますが、渋みのある乳白の色合いは、勘六山の土だから出せるものだそう。写真の片口はその土の気配を強く感じさせてくれるもので、食卓に温もりと安定感をもたらします。女性でも持ちやすいよう薄く引き、軽くて丈夫。皿などは料理がしっかりと映えて、さりげなく、しかし、しっかりと美しい。そいう器たちです。

水上勉さんと角さんのおすすめ

橘倉酒造|佐久市

作家の井出孫六さんと親交のあった水上先生は、井出さんの生家である橘倉酒造の日本酒を好んで召し上がりました。また、わたしが入院したときの向かいのベッドが橘倉酒造の奥様で、不思議な縁を感じて、それ以来、わたし自身も橘倉酒造のお酒を買うようになりました。

草花紋をあしらった片口。奥の黒線紋の角皿、ブルーラインのぐい呑みも角さんの作

相馬 佳織|ガラス

大学でガラス工芸を学び、東御市のガラス工房橙で10年間の修業を経て2015年に独立した相馬佳織さん。現在は長野市街地の少し北の高台で、アトリエと店舗を構えます。表面に焼き付けられたガラスの粒、すりガラス、白やブルーやピンクなどの色を加えたものなど、ひと口にガラスといっても、その表情はさまざま。「生活に寄り添い 美しく佇むガラス」とは相馬さんの目指すガラスの形。その言葉の通り、ニュートラルな形の一方で繊細をはらむ作品たちです。

長野県と同様に銘酒処として知られる青森出身の相馬さん、小柄で可憐なその姿からは意外な印象も受けますが、日本酒が大好き。日本酒好きの仲間が集まる日本酒の会を、率先して開催してきたほどです。だからこそ、片口ひとつとてもさまざまなバリエーションもあり、色や素材感も含めてお気に入りのひとつを見つけるのが楽しいところです。ガラスというと夏のイメージもありますが、相馬さんのとくに色つきのものは季節問わず食卓になじみます。

水尾 特別純米 金紋錦(田中屋酒造店|飯山市)

好きな銘柄はさまざまにあって迷いますが、1本を選ぶなら、お酒にさほど強くない夫も好んで飲むのでたびたび購入する「水尾」です。結婚式の鏡開きも、田中屋酒造店さんのお酒を使わせていただいたこともあり、とくに思い出深い酒蔵です。

まるでざらめをまぶしたような、おいしそうな片口と猪口

丸嘉小坂漆器店|漆・ガラス

木曽平沢の地で70年以上、3代続く漆工房。漆といえば木に施したものを想像されると思いますが、丸嘉小坂漆器店の代表作は漆をガラスに施しています。2代目の康人さんによる、「漆を使った新しい工芸品を」との思いから生まれました。ボウルや盃に何色もの細い線を漆で描いた「蕾」、二色を配した「袷」など、さまざまなデザインがあります。華やかさの一方で職人の技術に裏打ちされた繊細さが、クラシカルな表情も生み出す器です。

お皿やボウル、タンブラーなど、日常の器のなかに、盃や徳利のように使えるカラフェ・フラスコなど、酒器も多彩にラインアップしています。2020年2月に開催された第16回信州ブランドフォーラムでは、グッドデザイン部門で「百色(hyakushiki)」シリーズが見事大賞を受賞。重厚なイメージの漆の新しい側面を見せてくれる、現代の食卓によく似合う器です。

丸嘉小坂漆器店さんのおすすめ

緑香村 特別純米・無濾過生酒(美寿々酒造|塩尻市)

地元塩尻市の坂野酒店さんが育てる酒米・美山錦のみでつくる限定酒・緑薫村が好きです。スーパーにも売っていないレアなお酒で、地元とはいえ気合を入れなければ購入できないほど。地元の酒蔵が地元の米で醸し地元で売る、まさに〝地酒〟です。

右は蕾(tsubomi)シリーズの盃。外側は黒漆、白漆や朱漆、透明もある

宮坂醸造/ちきりや 手塚万右衛門漆器店|漆

真澄で知られる宮坂醸造と、約200年の歴史を持つ漆器店「ちきりや」とがコラボレートしてつくるのが、真澄オリジナルの「お呑み初め盆」です。お食い初めがあるように、20歳になって初めてお酒を飲む人に贈ったり、使ったりしほしいという思いから名付けられました。盆のうえに酒器と肴を盛り付ければ、粋な晩酌の風景ができあがります。正しく、美しく、そしてなにより美味しく日本酒を楽しんでほしいという酒蔵の思いが込められています。

ちきりやはその確かな技術でベルギー万国博覧会グランプリほか、名だたる賞を受賞してきた木曽屈指の漆器店のひとつです。現在の当主の手塚英明さんは7代目で、乱根来塗・乱曙塗など、オリジナル技法も駆使しながら、器や家具などを制作。幼児から大人まで、それぞれの手のサイズに合った器を選べるように細かなサイズ展開をしている畢生シリーズなど、根強い人気を誇ります。ぐい呑みなどの酒器も多数揃います。

宮坂醸造
ちきりや手塚万右衞門漆器店(塩尻市)
赤と黒の2種。お酒や酒肴を置くなどさまざまに楽しめます。購入は宮坂醸造の蔵元ショップ「Cella masumi」へ。売切の場合は受注生産となることもあります